2021年3月29日に行われた、青野照市九段と及川拓馬六段の一戦が面白かったので紹介する。
青野九段が「☗7八銀型ひねり飛車」という珍しい作戦を採用した。及川六段も上手く対応したが、終盤で青野九段が逆転し勝利を納めた。青野九段が採用した作戦が今後流行りそうな気がするので取り上げることにする。
初手からの指し手
☗2六歩 ☖8四歩 ☗2五歩 ☖8五歩 ☗9六歩 ☖3二金 ☗2四歩 ☖同歩 ☗同飛 ☖2三歩 ☗2六歩 ☖7二銀 ☗7八銀 ☖4二銀 ☗3八銀 ☖9四歩 ☗4八玉 ☖4一玉 ☗3九玉 ☖3一玉 ☗7六歩 ☖8六歩 ☗同歩 ☖同飛 ☗9七角 ☖8二飛 ☗7七桂 ☖3四歩 (第1図)

ひねり飛車ということを踏まえると、青野九段も及川六段も自然に駒組みを進めているが、☗7八銀が珍しい形で、青野九段の工夫が見られる。
☖3四歩で☖9五歩と角頭を攻める手もある。以下、☗8四歩☖9六歩☗7五角と対応する手もあり以下熱戦となることが予想されるが、本譜では☖3四歩となった。
第1図からの指し手
☗7五歩 ☖8八歩 ☗8六飛 (第2図)

青野九段は☗7五歩と指し、飛車の横利きを通し、石田流の理想形を目指す。及川六段は石田流に組まれる前に☖8八歩と動いていく。この手は、青野九段の作戦を真っ向から否定する手となる。と金を作られては負けだと判断した青の九段は、☗8六飛とひねり飛車らしくぶつけに行く。
この局面は7八銀型ひねり飛車が流行るかどうかの局面だと思うので、将棋ソフトに検討させた。すると、☗8六飛に代えて☗7四歩とという手があった。
☗7四歩に☖同歩は、☗6五桂☖6二金☗8六飛☖同飛☗同角☖8九歩成☗5三桂成☖同銀☗7一飛(参考図1)

また、☗7四歩に☖8九歩成としても、☗6五桂☖8八角成☗8六飛☖同飛☗同角☖7九と☗5三桂不成☖7八と☗6一桂成☖6九と☗7一飛(参考図2)

いずれにせよ、☗8六飛に代えて☗7四歩と指して、角のラインと桂馬で攻める展開の方が本譜よりも指しやすいと思う。☖8八歩の局面の研究が進み、この☗7八銀型ひねり飛車(青野流ひねり飛車)に今後プロの対局でも登場することを期待したい。
第2図からの指し手
☖8六同飛 ☗同角 ☖8九歩成 ☗同銀 ☖8七飛 ☗8八飛 ☖8六飛成 ☗同飛 ☖7七角成 ☗8二飛成 ☖9九角成 ☗7八銀 (第3図)

☖8六飛から☗7八銀までは一直線の進行。第3図は、後手が桂香得していて、手番も握っているため、後手少し有利の局面。☗7八銀で☗9一竜は、☖8九馬で銀を取られ、駒損が大きく後手優勢となる。やはり☖8八歩では、☗8六飛の飛車交換の前に☗7四歩と角道を開けて、と金を作らせている間に角のラインと足の速い桂馬で中央を攻めるのが良いと思われる。
第3図からの指し手
☖4五桂 ☗4八金 ☖5五馬 ☗9一竜 ☖7四歩 ☗8二歩 ☖7三桂 ☗6二飛 ☖2二玉 ☗6一飛成 ☖同銀 ☗同竜 ☖6五桂 ☗5九香 ☖5四香 ☗5六歩 ☖6四馬 (第4図)

第3図から20手ほど進んで第4図。ここまで来ると、☗4一金や☗3六銀などがあり、第4図では先手有利となった。後手は中央突破に固執するのではなく、どこかで☖7六香という手を指すのが良かったという印象。
第4図からの指し手
☗2四歩 ☖2六飛 ☗1五銀 ☖2八角 ☗4九玉 ☖2四飛 ☗同銀 ☖同歩 ☗2三歩 ☖3三玉 ☗2一竜 ☖3九銀 ☗3六飛 (第5図)

☗2四歩を☖同歩なら☗2三歩と打ち、(1)☖同金は☗4一竜、(2)☖同玉は☗2一竜で先手優勢となる。そのため、☖2六飛と攻防に飛車を打つ。以下、第5図までは一直線の進行となる。この☗3六飛は、☗3四飛☖同玉☗3二竜☖3三歩☗2六桂☖2五玉☗3六玉☖1五玉☗1六歩までの詰めろとなっている。
第4図では先手が盛り返した状況となり、ここから青野九段は堅実な差し回しで勝利を納める。
第5図からの指し手
☖5六香 ☗同飛 ☖5四歩 ☗6八金 ☖3一銀 ☗4六歩 ☖4八銀成 ☗同玉 ☖1九角成 ☗4五歩 ☖5五香 ☗3六飛 ☖2八馬 ☗4一銀 ☖7五馬 ☗6六桂 ☖3五金 ☗同飛 ☖同歩 ☗4六桂 まで93手で青野九段の勝ち

第5図で☖3一銀と詰めろを解除すれば良い勝負だったと思うが、実戦は☖5六香と詰めろを解除しつつ先手玉に詰めろをかけた。詰めろ逃れの詰めろのため、非常に良い手に見えるが、青野九段は☗5六同飛と冷静に指し、先手勝勢となった。以下、冷静に指して青野九段の勝利となった。
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青野九段の7八銀型ひねり飛車に対して、及川六段も真っ向から否定しにいった対局となった。第1図からの☗7五歩☖8八歩☗8六飛の周辺の局面が今後の研究課題となる局面。個人的には☗8六飛に代えて☗7四歩で先手が指しやすいと思う。ここで後手に上手い手がないと先手が面白い戦法のため、今後流行する可能性を大いに秘めている。
それにしても、有利になった局面からの青野九段は、リードを譲ることない正確な指し回しだった。