将棋

【一手損角換わり】第34期竜王戦1組出場者決定戦 羽生善治九段―丸山忠久九段 (2021/4/1)

2021年4月1日に竜王戦の1組出場者決定戦で羽生善治vs丸山忠久の対局が、エイプリルフールに相応しい嘘みたいな逆転劇だった。良く言えば丸山九段が激辛流らしく進めたとも言えるし、悪く言えば丸山九段がビビって攻めなかったとも言える対局だった。

初手からの指し手

☗7六歩 ☖3四歩 ☗2六歩 ☖8八角成 ☗同銀 ☖2二銀 ☗4八銀 ☖6二銀 ☗3六歩 ☖6四歩 ☗2五歩 ☖3三銀 ☗3七銀 ☖6三銀 ☗6八玉 ☖5四銀 ☗7八玉 ☖4四歩 ☗5八金 ☖8四歩 ☗2六銀 ☖8五歩 ☗7七銀 ☖9四歩 ☗6八金 ☖1四歩 (第1図)

第1図:26手目1四歩まで

羽生九段と丸山九段の対局は、丸山九段が後手番となったため、大方の予想通り一手損角換わりとなった。一手損角換わりだけでこの地位についたと言っても過言ではない丸山九段は、竜王戦の一番にも得意の一手損角換わりを採用した。一手損角換わりは、後手番のうえに手損して角交換するため、先手から棒銀や早繰り銀で先行されるため、受け将棋になりやすい。将棋ソフトが普及して速攻をしかける将棋が流行っている現代では、糸谷哲郎などの一部のスペシャリストのみが採用する作戦となっている。

第1図までの進行は、先手側は棒銀で攻めると心に決めたら違和感のない展開と成っている。後手側は玉の整備の代わりに端歩を突いているが、特に違和感のない進行となっている。形勢も互角。先手の羽生九段は、固くはないがポナンザ囲いができたので、ここから仕掛ける。

第1図からの指し手

☗3五歩 ☖3二金 ☗3四歩 ☖同銀 ☗3七銀 ☖8六歩 ☗同歩 ☖4三銀 ☗3六銀 ☖9三桂 ☗2四歩 ☖同歩 ☗3五歩 ☖8五歩 ☗2四銀 ☖8六歩 ☗8八歩 ☖2七歩 ☗同飛 ☖2三歩 ☗3五銀 ☖8五飛 ☗3六歩 ☖6二金 ☗2八飛 ☖4五銀 (第2図)

第2図:52手目☖4五銀まで

☗3五歩に☖同歩と応じると先手の棒銀が成功するため、☖3二金は必然。その後は☗3四歩〜☗3七銀と銀を立て直す。

後手はここで☖8六歩。これに☗8六同歩だと、☖3六歩☗同銀☖5五角がるため、☗8六同歩も必然の手。対して後手は☖4三銀と雁木の形に組む。

36手目の☖9三桂は、次に☖8五歩☗同歩☖同桂☗8八銀☖8七歩☗同銀☖5五角を狙っている。そこで先手は☗2四歩と攻める。

その後、第2図までは半分定跡みたいな進行となる。第2図は互いに主張があり、形勢は互角。

第2図からの指し手

☗1六角 ☖5二金 ☗2四歩 ☖同歩 ☗同銀 ☖3六銀 ☗2六飛 ☖6三角 ☗3七歩 ☖2五歩 ☗2八飛 ☖1五歩 ☗3八角 ☖4五銀 (第3図)

第3図:66手目☖4五銀まで

第2図で☗2六飛と歩を守る手もあるが、☗2八飛と下がったばかりなので指しづらい。そこで羽生九段は☗1六角と打った。後手が手抜きの様な手を指すと、☗4三角成☖同金☗2三飛成で先手勝勢となる。

☖4五銀で☖3七銀成☗同桂☖3六歩(参考図1)が厳しそうな手として見えるが、☗2七角があり形勢難解。参考図1で☖3七歩成は、☗6三角成☖同金☗9六角がある。

第3図は後手有利。先手は8筋を詰められ、角は隠居、飛車は後手の2五歩が良い働きをしていて飛車先の突破はすぐにはできない。対して後手は雁木に守られており、居玉が逆に戦場から遠い。

参考図1:☖3六歩まで

第3図からの指し手

☗6六銀 ☖3四銀 ☗7五銀 ☖5四角 ☗7七金 ☖2六歩 ☗同飛 ☖2三歩 (第4図)

第4図:74手目☖2三銀まで

第3図では、☗5六歩や☗2五飛もあるが、羽生九段の指し手は☗6六銀。☗7五銀や☗7七桂、☗4六歩などを絡めて手を作ろうとしている。

一方の丸山九段は自然な手を指し続け、第4図に至る。この局面は先手の銀は捕まり後手優勢。普通、プロ同士の対局でここまで進むとよっぽどな手を指さない限り後手が勝つ局面である。

第4図からの指し手

第5図:89手目☗1五歩まで

☗8六銀 ☖8二飛 ☗1五銀 ☖6五歩 ☗1六歩 ☖3五銀 ☗2八飛 ☖1五香 ☗4九角 ☖8五桂 ☗8七金 ☖6六歩 ☗同歩 ☖4五歩 ☗1五歩 (第5図)

丸山九段は厳しく迫り徐々に優勢を広げていたが、☖4五歩が少し甘い。この手に代えて、☖2七銀☗4八飛☖1六香☗同香☖3八歩(参考図2)と☖3九歩成を狙うと、さすがの羽生九段も投了していたと思う。☖4五歩は激辛流らしく迫ろうとした手と思われる。しかし、この手もそこまで悪い手ではなく、第5図も後手優勢の局面。

参考図2:☖3八歩まで

第5図からの指し手

☖4六歩 ☗同歩 ☖同銀 ☗5六香 ☖4五角 ☗4七歩 ☖3五銀 (第6図)

第6図:96手目☖3五銀まで

第6図の☖3五銀までは優勢を拡大させながら指していくが、96手目の☖3五銀がまたもや形勢の差を縮める手となった。それでも後手有利なのは変わらないが、☖3五銀に代えて、☖3九銀が良かった。☖3九銀に対して☗4六歩は☖5六角☗同歩☖2八銀不成の二枚換えだし、☗2五飛も☖3三桂がピッタリ、☗3八飛も☖4八歩で後手勝勢だった。

第6図からの指し手

☗1六角 ☖5四歩 ☗6七金 ☖4四銀打 ☗9六金 ☖5五歩 ☗8五金 ☖5六歩 ☗同歩 ☖5五歩 ☗5七桂 ☖6三角 ☗6五桂 ☖8三飛 (第7図)

第7図:110手目☖8三飛まで

第6図から羽生九段は最善の手を指し続け自分からは決して崩れない。第7図では既に形勢は互角に戻っている。絶対に諦めず、苦しい時に最善を尽くし続け、ついに追いついた。

第7図からの指し手

☗7七桂 ☖4二玉 ☗5五歩 ☖4五角 ☗5八飛 ☖3三玉 ☗5六金 ☖3四角 ☗3四角 ☖同銀 ☗6一角 ☖4九角 (第8図)

第8図:122手目☖4九角まで

第7図以降、つば迫り合いのような手の応酬が続くが、☖4九角が大悪手で一気に先手勝勢に変わった。この手は飛車を取るというよりかは、☖7六角成と馬を作ることが目的だが、後に示すように、☗7三の地点に飛車か竜も持ってくると王手馬取りとなる。これを丸山九段はうっかりしていたらしい。

☖4九角に代えて、☖8二飛☗7三桂成☖9二飛として長い戦いだった。

第8図からの指し手

☗5九飛 ☖7六角成 ☗8三角成 ☖8一香 ☗7一飛 (第9図)

第9図:127手目☗7一飛まで

丸山九段は☖4九角が悪い手とは気づいていないため☖7六角成〜☖8一香と指す。☖8一香は例えば後手玉の位置が☖2二だと恐ろしく厳しい手となるが、☗7一飛がピッタリとした手となる。☖8三香だと☗7三飛成が王手馬取りとなる。7六馬を抜けば先手が勝ちだ。とはいえ待ったはできないので、この後は先手勝勢のまま進んでいく。

第9図からの指し手

☖8五馬 ☗同銀 ☖8三香 ☗7三飛成 ☖4三銀 ☗8三竜 ☖3四角 ☗1一角 ☖2二金 ☗3六香 ☖同銀 ☗同歩 ☖4八金 ☗3五銀 ☖5九金 ☗3四銀 ☖同玉 ☗2二角成 ☖5八飛 ☗8七玉 ☖5六飛成 ☗4六金 ☖8六銀 ☗同玉 ☖6六竜 ☗7六歩 まで153手で羽生九段の勝ち

第10図:154手目☗7六歩まで

良くなってからの羽生九段は最善の手を指し続け154手で丸山九段に勝利した。

中盤までは丸山九段が得意の一手損角換わりで優位を築いたが、羽生九段の驚異的な粘りがみのり、遂には形勢互角まで盛り返した。終盤で丸山九段が☖4九角とウッカリさしてからは急転直下の展開と成ったが、羽生九段の粘り強さにはただただ驚くしかない。

この対局からは、今時点がとても悪い状況でも、決して諦めずに自分が最善と思うことを信じてやり続けると良い結果が訪れるということを学んだ。

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