ヒューリック杯女流順位戦の中井広恵女流六段と和田はな女流2級の一戦が、中井女流六段の居飛車に対して、和田女流2級が流行りの耀龍四間飛車で対抗した。中井女流六段が対四間飛車のお手本のような攻め方をして解消したので取り上げる。
それにしても中井広恵が去年から異常に調子が良い。1969年生まれなので現在52歳。羽生善治より年上だし、佐藤康光や及川光博、福山雅治、的場浩司、浅香唯、阿笠博士と同じ年なのである。芸能人、特にミッチー、は異次元の若さだが、世間的にはおじさん&おばさんの年齢である。この年齢になるとどうしても衰えが隠せず、どうしても若手に負けてしまい、年間成績も5割を切るのだが、中井広恵は、2020年度が21勝7敗の勝率.750。この順位戦も全勝で絶好調なのだ。
初手からの指し手
☗2六歩 ☖3四歩 ☗2五歩 ☖3三角 ☗7六歩 ☖4四歩 ☗4八銀 ☖4二飛 ☗5六歩 ☖6四玉 ☗6八玉 ☖7二玉 ☗7八玉 ☖3二銀 ☗5八金 ☖9四歩 ☗9六歩 ☖4三銀 ☗5七銀 ☖6二金 ☗7七角 ☖5二金 (第1図)

中井女流六段は居飛車党なので、特に何も気にせず対振り持久戦の駒組みを進める。
和田女流2級は振り飛車党なので、四間飛車にする。普通は美濃囲いや穴熊に組むが、☖8二玉とはせずに、7二玉のままで☖6二金〜☖5二金と金無双に組み、今流行りの耀龍四間飛車に組む。これが先手の角が将来3七に移動した時に角のラインから逸れており、また、玉は薄いが中央に駒が配置されているので、角交換後の打ち込みのスキが少ない。さらに、守りの銀が8二から進出し、玉頭戦に持ち込んだりできる。駒組みの手数がかからないので、先手が戦いの準備を終える前に仕掛けることもできる。こうした理由で今大流行している。
第1図からの指し手
☗8八玉 ☖5四銀 ☗6六歩 ☖7四歩 ☗6七金 ☖8二銀 ☗7八銀 ☖7三桂 ☗8六歩 ☖8四歩 ☗3六歩 ☖4五歩 ☗5九角 ☖6四歩 ☗7七桂 ☖1四歩 ☗3七角 ☖6三金 (第2図)

穴熊だと後手に一方的に攻められる展開になるため、先手は第1図から左美濃に組む。後手は☖7四歩〜☖7三桂と攻めの体制を整えるが、先手が上手く仕掛けを封じる。
第2図までは特に違和感のない進行。第2図から先手は☗8九玉と予め後手の角のラインから逃げておく手や、☗4八飛と四筋を逆襲する手、☗1六歩や☗6八金などのパスの手があるが、絶好調の中井広恵はここから仕掛ける。これがまたアマチュアの方にはとても参考になる攻め筋となる。
第2図からの指し手
☗5五歩 ☖同銀 ☗2四歩 ☖同歩 ☗3五歩 ☖同歩 ☗5五角 ☖同角 ☗2四飛 ☖2二歩 ☗3四歩 ☖1九角成 ☗3一飛成 ☖4四飛 (第3図)

第2図から☗5五歩〜☗2四歩〜☗3五歩と次々に歩を突き捨て、角銀交換の駒損ながら飛車の成り込みに成功する。第3図は先手・後手共に好きな時に桂香を拾えるので、実質的な駒の損得は角銀交換となる。しかし、先手は飛車を先に敵陣に成込みに成功しており、玉型は先手が固い。さらには手番も先手が握っている。既に先手有利の局面である。第2図からの仕掛けが対四間飛車戦において非常に参考になる手順で、アマチュアは参考にすべきだと思う。
後手の対応も特に問題ないと思うが、☖2二歩と受ける手の代わりに、☖4一飛☗5六銀☖1九角成☗2二飛成☖7一飛☗5二銀☖同金☗同龍☖6二銀(参考図1)と受ける展開もあったかなと思う。これは、駒得しているんだから、自分からは崩れに行かず体力勝ちを目指す展開である。しかし、相当受けに自信がないと指せない展開で、実践的には第3図までの流れは必然だと思う。

第3図からの指し手
☗2二龍 ☖8三玉 ☗3七歩 ☖5四香 ☗2一龍 ☖4六歩 ☗同銀 ☖4一歩 (第4図)

中井広恵は第3図から☗2二龍と指す。ここで☗2一龍が自然だが、☖2四飛と後手の飛車に成り込まれる手を嫌った。☖2四飛以下、☗1一龍☖2九飛成(参考図2)の局面に自信が持てなかったのだろう。参考図2は形成互角だが、馬を先に作られている上に飛車を成りこまれる展開を嫌ったものだと思われる。

そこで先手は☗2二龍〜☗3七歩と後手の大駒を活用させないように指す。☗3七歩の局面では形勢は互角だと思うが、☖5四香☗2一龍からの☖4六歩が悪手となり、先手優勢となった。これは☗4六同銀としながら銀を助けることができるためである。後手としては☖4一歩として2一龍の利きを遮断することが大事だと思ったに違いないが、☖4六歩に代えて、☖5七香成☗同金☖4六歩☗同歩☖3九角(参考図3)と迫ったほうが、後手がまだ苦しいがいい勝負だったと思う。

第4図からの指し手
☗5五歩 ☖1二角 ☗1一龍 ☖6七角成 ☗同銀 ☖2九馬 ☗5六角 ☖7五桂 (第5図)

第4図から☗5五歩と香車を取りに行くが、☖1二角が後手の勝負手。この手に対して先手は、☗2二龍と後手の1九馬を封じ込めつつ冷静に交わしておけば良かったが、☗1一龍と逃げたために、☖6七角成〜☖2九馬とされてしまう。ここまでくると先手有利だが形勢は縮まっている。
この☖2九馬は、次に☖4七馬を狙っている。そこで先手は☗5六角と4七の地点を受けつつ☗7五桂を狙うが、この手が微妙で形勢は難解になっている。
しかし、この☗7五桂を狙う手を防ぐために「敵の打ちたい所に打て」と☖7五桂としたが、この手が悪手で形勢は先手が抜け出した。
後手は☖7五桂に代えて、☖6五歩と指すべきだった。☖6五歩に☗同歩なら、☖6六歩☗同銀☖4六飛(参考図4)で後手大逆転。また、☖6五歩に☗同桂なら、☖6五同桂☗同角☖7五桂☗同歩☖4六飛☗同歩☖6五馬☗同歩(参考図5)となり形勢互角。参考図5は、☖6六歩☗7六銀☖6七角などの攻めを狙って後手有利。


第5図からの指し手
☗7五同歩 ☖4六飛 ☗同歩 ☖5六馬 ☗同銀 ☖7六金 ☗7八銀 ☖7五金 ☗5四歩 ☖6六金 ☗3三角 ☖5六金 ☗5三歩成 ☖同金寄 ☗4一龍 ☖6六角 ☗5一角成 ☖5二金 ☗同馬 ☖同金 ☗7六金 ☖6七銀 ☗6六金 ☖同金 ☗6一角 ☖9二玉 ☗9三香 ☖同玉 ☗8三飛 ☖同銀 ☗同角成 ☖同玉 ☗9五桂 ☖同歩 ☗8一龍 ☖8二桂 ☗7二銀 まで108手で中井女流六段の勝ち

途中、☗3三角に代えて、☗5三歩成☖同金寄☗4一龍と厳しく追求するもの良いが、本譜では3三に攻防の角を打つ。以下、中井女流六段は手堅く進めて108手にて勝利した。
本譜は、和田女流2級の耀龍四間飛車に対して、中井女流六段の左美濃で対応する一戦となった。駒組みが終わってから☗5五歩〜☗2四歩〜☗3五歩〜☗5五角〜☗2四飛は対四間飛車で参考になる手順だった。