読書ノート

識字能力・識字率の歴史的推移――日本の経験

現在、発展途上国を含む世界中で、PCやスマホが普及しており、コンピュータ・リテラシーが重要なのは明らかだが、基本的には、言語の読み書き能力に依存しているため、識字能力の重要性は非常に高い。読み書き能力の普及と成人の非識字者の削減が課題とされているが、その進展は、基礎教育レベルでの就学率向上といった優先的課題に比べると、必ずしも目覚ましいものとは言えないのが現状である。

さて、非識字問題は日本にはないと言われている。確かに、赤羽駅の喫煙所で「金を貸してくれ」と周囲の人に言っている変なおじさんも、一切確認せずに車線変更するトラックのクソ運転手も、王子神谷のセブンで「心臓が破裂しそうだ」と全員にからんでいる目がイッているおじさんも、日本語を読める。

識字能力・識字率の歴史的推移 : 日本の経験は、識字率の日本が、1)いつ識字問題が解決したのが、2)それはどんな調査や資料を基に判断されたのか、3)どのような施策で識字率向上が達成されたのか、4)日本でも発展途上国で推進されているような識字育児運動や国家的キャンペーンが展開されたのか、ということに対する応答である。

江戸時代の識字率

江戸時代、諸法度やお触書、ご高札、五人組帳前書の公布などの政治的統制の必要や商業、契約書や簿記、通信、両替などの取引活動には読み書き能力が必要だった。さらに、納税記録や質入れ証文、受取勘定、農事記録、農書などの農村の統治と経営のための村の指導者層の間でも読み書き能力が必要不可欠だった。僧侶や医師も識字層だった。

さらに、戦乱のない安定した社会の中で、町人文化が台頭するにつれて、庶民層の間でも文字を学ぶことの必要性と重要性の認識の高まり、それを身につける動きが広がった。

読み書き能力の普及は、男女間や職業間などで格差は見られたが、江戸時代は、このような文字の庶民への普及を前提として、国家体制が出来上がっている。江戸幕府は最初から、町や村の人々の中に文字が使える人がいることを前提とした体制だったと言っても良いくらいである。

終戦直後の「日本人の読み書き能力調査」

日本の戦後教育改革は、連合国総司令部民間情報教育部(GHQ-CIE)の指導と官吏の下に開始された。GHQは、日本の教育から軍国主義的および超国家主義的な要素を排除することを急いだ。戦後の日本の教育会アックの全体構想を検討するために、教育専門家で構成された「対日教育使節団」の派遣をアメリカに要請した。

1946年に来日した使節団は、精力的な調査活動を行い、日本の教育改革に対する報告書を提出した。この時に、6-3-3制の採用、教育委員会制度の導入、新制大学制度、男女共学、師範学校の廃止などが勧告された。

そして使節団は、「書かれた形の日本語はおおむね漢字で書かれるが、その漢字を覚えたり書くことに勉強時間の大部分が割かれることになる。教育の最初の時期に、自然界や人間社会についての基本的な知識などを学ばないといけない時間が、文字を覚えるためだけに無駄に消費される。漢字文化は学習上の恐るべき障害である。なので、漢字を大幅に減らすか、そもそも漢字の全廃するか、ローマ字を採用するか」をしないとダメだと勧告した。

対日教育使節団による、言語改革論議や漢字制限論、仮名書き化、ローマ字化論は大きな議論と抵抗を巻き起こした。GHQ-CIE内でも、日本語は難しすぎて本当に日本人の負担になっているのか否か、国民の読み下界能力は実際にどの程度なのかを調査して検証してみようという動きになった。そこで、言語学と国語学、心理学、教育学、社会学、統計学の専門家が集められ、大規模な国民の読み書き能力調査が行われた。

調査は、全国の15〜64歳の成人男女約1.7万人を対象にした無作為抽出調査だった。戦争直後の混乱時に、パソコンはもちろん、電卓やコピー機さえまに時代に人海戦術でこの調査を行った。

調査のための試験は、ひらがな・カタカナ・数字・漢字の書き取りと読み取り、意味の理解、センテンスやパラグラフの理解など90問が課された。「かなさえ正しく読み書きできない者」を完全盲目、「かなはどうにか読み書きできるが、漢字は全く読み書きできない者」を不完全盲目と定義した。

調査の結果、全国で完全盲目と判断された者は1.6%、不完全盲目者まで対象を広げても全体で2.1%という数値であった。この結果は関係者の予測よりもかなり低いものであった。報国では、「この比率は、世界の諸国での文盲率に比べて著しく低いと予想される。したがって、UNESCOの言う"Fundamental Education"ということは日本では問題にならない」と述べられている。

この後、日本語ローマ字化論や仮名書き論をめぐる議論は、日本の言論界から急速に後退し、沈静化するという経過をたどることになった。ここでアメリカがゴリ押しして、日本語と英語の両方をきちんと教えるようにしていたら、今僕は英語が分からず人生を損するなんてことはなかったのにな...。

江戸時代の社会システム上や寺子屋などの普及により、外国と比べても日本は昔から識字率が高かった。本稿はそんな日本の識字能力と識字率の推移を推測するためにいくつかの歴史的資料を検討している。

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