読書ノート

仁義なき宅配

アマゾンでも、楽天でも、ヨドバシでも、ユニクロでも、ZOZOTOWNでも、百貨店でも、何でも良いからネットで買物とすると、恐ろしいスピードで自宅に届く。最近だとヨドバシカメラの通販が鬼のような早さで、「ゆうメール」で届いたり、「ゆうパック」で家に届く。しかもそれらをアマゾンや楽天は配送料無料とかで実施している。利用者としてはこの上ないほど便利である。

著者の横田増生は、物流業界紙の記者を10年以上書き、海外で数年過ごしながら海外の物流企業の記事を書いてきた。物流業界では、一番多く欧米の企業の取材をして、記事を書いてきた自負もある。そんな著者が「日本の物流業界は世界一の水準にある」と断言している。海外の物流企業だと、本社の経営トップのプレゼンは素敵だが、実際の現場業務は全くそんなことはなく落差に驚くらしい。その一方で、配送料無料でどうやって採算が合うのだろうかと疑問が著者に残った。

しかし、どのようにして翌日配達が可能になっているかという全体像は僕らには見えづらい。仁義なき宅配: ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾンでは、宅配便の話を、企業戦略という視点に加え、その仕組みを支えている現場の労働者の視点を絡めて描いている。

佐川がアマゾンとの取引を打ち切る

佐川は、これまでの「荷物を多く集めれば利益が出る」との考えを、「適正運賃」を頂く利益重視に方針を変えた。「企業は利益がなければ存在する意味がない」との基本に戻り、2012年半ばから、経営の舵をそれまでのシェア至上主義から利益重視へと切り替えた。その結果、2013年春、最大手の荷主であるアマゾン・ジャパンとの契約を打ち切った。

これは、1990年以降、骨身を削るように集配密度を高めるためシェア争いを続けてきた宅配業界の潮目が大きく変わった。運賃単価が低いままだと、顧客から求められる配送品質に応えられなくなり、車両やセールス・ドライバー、荷物の仕分けを中継するセンターや営業所などの設備を維持できなくなるらしい。

シェア至上主義を掲げてきた佐川急便にとって、ネット通販発の宅配荷物の増加は、平均運賃が下落し、それに伴い利益率も低下した。2006年3月期には1個当たり530円弱だった平均単価が、2013年3月期には460円にまで落ちた。単価の位置幅は1割強になった。結局、得したのは荷主ばかりで、宅配業者は経営の体力が奪われた。

佐川急便は、2012年になって、これ以上利益率が落ち込めば企業の存続さえも危うくなるという危機感から、ようやく数を追い求めることより、利益のほうが大事として、運賃適正化に踏み切った。

「全品配送無料」がもたらした負荷

「佐川の場合、住宅地への宅配荷物の多くは、下請けの軽四トラックに委託するので、なかなか儲けが出なかったのですが、ヤマトの場合、自社のドライバーが運ぶので、外注費が発生しないためアマゾンの仕事を引き受けることができたんです。その分、ヤマトのドライバーの負担は重くなるのです」(アマゾンの荷物は「正直しんどい」)

そもそも佐川急便は、佐川清が1957年、ヤマト運輸が宅急便を始める20年以上前、裸一貫で京都で飛脚業を開始した。佐川清は、自分のサービス業を京都―大阪間と決め、問屋へ「飛脚の御用はありませんか」と注文を取りに回った。この時は、商業輸送で、現在の宅配業ではない。配達する先はメーカーから問屋、問屋から小売店であった。

しかし、1990年代後半から、カタログ通販やネット通販発の荷物が増えるにつれ、企業発個人宅への配送も行わなければ、ヤマト運輸とのシェア争いにおいて後塵を拝する状況に追い込まれた。

その後、アメリカからアマゾンがとてつもない資本も持ってやってきた。アマゾンから大量の荷物が流れ込んだことで、佐川急便の現場には大きな負荷がかかるようになった。Amazonの荷物によって佐川急便の各営業所の収支が悪くなった。さらに、商業地区における午前中の配達率や時間帯サービス履行率、発想・到着事故発生率などの現場の業務水準を測る指標も悪化した。収支だけではなく、サービスレベルも悪くなったというのだから、踏んだり蹴ったりの状態になった。

長時間で低賃金、肉体的もきつい仕事である。その上、三ヶ月で打ち切られるという不安定な契約ではとてもやっていられない内容だ。

「宅配ボックスの奪い合い」より

都内の住宅密集地などになるセンターでは、自社のトラックで運びきれない荷物量が集まってくる。ヤマト運輸では、それを補うために下請けの軽トラを契約する。しかし、その利益が下請けのものにならないよう、その契約は三ヶ月ごとの更新となる。

著者が横乗りしたトラックでは、下請けを始めてから2年弱の間に7か所宅配センターで働いた。そのドラーバーは、「次はいつヤマト運輸から声がかかるか分からないし、次に契約できたセンターでは荷物量が少ないかも知れない。そしたら稼ぎが少なるし生活が苦しくなる」と不安な日々を過ごしている。

ただで商品が届くと思うんじゃねぇよ。お前ん家まで汗水たらしてヤマトの宅配会社の人がわざわざ運んでくれたんだよ

「送料はただと思うな」より

これは、ZOZOTOWNの前澤の2012年のSNS上での発言である。

無料で商品が届かいのは正論だが、長い間送料無料に馴染みすぎた僕らの感覚にはその正論は通用しない。消費者にしてみれば、送料無料にしたのは「そっち」なのである。案の定、この発言は炎上したので、前澤は陳謝し、翌月から全品送料無料に転換した。まぁどうせ商品に配送料分の値段を上乗せしているんだろうけど。

ジャーナリストが調査報道の手法を使って書いた物流業界の本というのは本書までは存在しなかった。著者が宅配業界を取材して、業界を丸ごと描ききっている良書である。

しかも、経済専門の出版社ではなく、一般書を扱う出版社から出しているため、今までの物流関連の本とは違う読書層に読んでもらえる一冊となっている。

第二章以降の「下請けドライバー」同乗ルポは、要求されるサービスレベルが高くなって過度の負荷をかけられた物流業界の過酷な労働環境を描いている。物流業界に興味ある人はもちろんだが、興味ない・知らない人も一読の価値はある。

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