読書ノート

日本車は生き残れるか

日本の自動車製造業の製造品出荷額は62兆円を超え、日本のDDPの約1割を占める。全製造業の製造品出荷額に占める自動車製造業の割合は約2割、自動車関連産業の就業人口は542万人に達する。日本のGDPの約1割を占める自動車産業はさすがに崩壊しない。ただ、戦い方のルールは大きく変化する。そして、新しいルールに適応できた企業だけが生き残ることができる。

自動車産業のキーワードは、CASEである。Cはコネクテッド、Aは自動化(Autonomous)、Sはシェアリングサービス、Eは電動化である。日本は電動化のEと自動化のAは話題になりがちだが、CASEを並列で眺めていると本質を見誤る恐れがある。自動車というモノがインターネットに繋がると、自動車を取り巻く世界は大きく変わる。自動車産業の本当の大変化はそこから始まる。

自動運転に関する3つの論点

第一の軸は、「人」を運ぶのか、「物」を運ぶのか、という論点である。前者は後者よりも目標レベルや何度が数段上がる。人名や安全性の点に加えて、乗り心地や快適さという側面もある。また、自動運転時において安全性と快適性を同時に達成するのは極めて難しい。ウェイモ(アルファベット傘下)は同時に達成しようとしているが、現時点ではかなりハードルが高い。

第二の軸は、「商用」か「非商用」かという論点である。トラックやバスのような商用向けの方が、自動運転車両を活用したビジネスモデル、キャッシュフローを想定しやすい。一方、非商用、要は一般車などは、購入したユーザに対し、どのようなビジネスモデルが適用できるのかはまだ未知数である。

第一、第二の軸から見た場合、「物」を運ぶ「商用」向け、という組み合わせが、まずは自動運転技術の活用先として現実的だという見方が有力である。

第三の軸として、自動運転車料が走行する「走行環境」がある。市街地の中のように、自ずと複雑な走行環境となる街路での走行と、高速道路を使っての長距離輸送とでは、自動運転に求められるアルゴリズムの精度が全く異なってくる。アメリカでは、「物」の輸送を「商用」向けに、まずは高速道路を中心とした長距離輸送から自動運転を始める試みが現実味を帯びてきている。

もちろん、技術も重要であるが、日本ではビジネスモデル(要はニーズ)の視点から語られる機会が少ない。巨額の開発費がかかるとされるレベル4以降の自動運転技術の開発コストを紫衣透過するためには、車両の販売のみならず、開発した自動運転技術を活用したビジネスモデルの構築やコスト削減へのストーリーが不可欠である。

新しい時代の流れ

従来の「自分の会社の技術を使って次世代の事業を考える」という時代から、「社会的な課題から需要のある事業とは何かを考える」時代に移っていく

「はじめに」より

日本の自動車産業は、「モノづくり」という意味では今では世界トップレベルの技術を持っている。しかし、自社の技術力、自社のモノづくりに拘り続けたあまり、「社会的な課題」から事業を考えるという視点が足りなかった。

モノづくりの思考回路から抜け出せない経営陣がいる企業では、「電動化の技術開発を急げ!」と檄が飛び、そのために技術者たちが徹夜して開発する、などという時代速後の企業経営につながりかけない。必要なのは、電動化に関する自社の優れた技術よりも、社会的な課題に気づかずに本当に飛鳥な開発を怠り続けた経営陣の反省だろう。

車を作って売るだけでは儲からない時代に

「大丈夫だ。俺は今まで自分のやり方で、ここまで大きくなった。だから、これからも同じやり方を続けていけば、絶対に大丈夫なんだ」。現時点の日本の自動車産業を巨人にたとえるならば、そんな感じかもしれない。

「第1章 自動車産業はどう変わるのか」より

確かに日本の自動車産業は崩壊しない。ただし、戦いからのルールは大きく変化する。そして新しいルールに適応できた企業だけが生き残ることができる。

現在は、車を作って売るだけでは儲からない時代になった。自動車産業が生き残る道は1つ――新しく生まれる、コネクテッドをはじめとする巨大な史上に参入する準備を一刻も早く整えて、競争領域と強調領域とを見極め、そして一項も早く自らの武器を持って戦いの場に参入することだ。

重要なルール変更の第一は、自動車がIoTに組み込まれて、パソコンやスマホのような「oT」になるという点である。

第二は、「垂直統合から水平分業への変化」である。初期のテスラのような委託生産やファブレス経営(工場を持たないメーカが、自社で開発した商品の製造を他社に委託し、自社ブランドとして販売を行う経営手法)」を行う自動車メーカーが続々と誕生している。エンジン車ほど大型の投資を必要としないEVのスタートアップで顕著な動きである。

第三は、「データとソフトウェアを制する者が全てを支配する」である。GAFAの台頭を機に色々な業種で言われていることだが、「Data is the new oil(データは新時代の石油)」であり、無数の鉱脈に繋がっている。

結論めいたことを言うと、これからの時代に日本の自動車産業が目指すべきなのは、「スケーラブル(拡張可能性)かつサステナブル(持続可能性のある)な事業の創出」である。具体的には、「社会の課題を起点として、事業のあるべき姿や目指すべき方向性を考える」、「社会に必要とされる、意味のある、欲しいと思わえるサービスを作り出す」といったことである。そのためには、自社の技術や製品にこだわらず、買収合併を含めた外部との連携を積極的に推し進める、という選択肢も重要になってくる。

ノキアの教訓

車だけ作っていれば王様でいられた時代から、ソフトウェアやデータを握った新しい王様のために車を作るな時代になるのではないか――これが、欧州の時土砂メーカに共通する危機意識である。

「ノキアの教訓」より

かつてガラケーの時代ではノキアが携帯電話の王様だった。しかしそれがアップルのiPhoneに始まるスマホによってノキアは一気に凋落し、またたく間に経営危機に陥った。

ハードウェアの塊であった携帯電話は、そのハードを製造できるメーカーが圧倒的に強かった。しかし、スマートフォンが誕生し、音声配信を始め、アプリを使ったソフトウェアサービスと融合する、ソフトウェア主導の動きが起こると、消費者に訴求する価値観が大きく変わった。アプリやOSを使用する消費者との接続性からネットワーク効果が働き、市場シェアがiPhoneやAndroidをOSとするスマホに集中する事態が起きた。その結果、ハードの王様だったノキアもあっけなく敗北した。

自動車業界でも同じようなことが起こるのではないか――車というハードウェアを作ることに長けた自動車メーカーが、コネクテッドや自動運転のようなデジタル化の時代から大きく後れを取ることで、凋落してしまうのではないか。車だけ作っていれば王様でいられた時代から、ソフトウェアやデータを握った新しい王様のために車を作るな時代になるのではないか――これが、欧州の時土砂メーカに共通する危機意識である。

現代では、良いクルマを作るだけでは不十分で、交通渋滞や環境を改善する方法を見つけなければならない。ネットで相互に繋がり、データの活用によって便利・快適なものにしないといけない。電化・自動化・コネクテッドという、3つが実現して初めて交通は「排出ゼロ・事故ゼロ・ストレスゼロ」を実現できる。

日本産業の弱み

モノづくりは楽しいし、高い評価を受けられる。モノづくりのプロジェクトが失敗しても、努力の過程は見せられる。だが、それだけでよいのだろうか。(中略)これらかの時代には、モノ単体よりも、そのモノを活かす場となるプラットフォームの構造を考えるようなスキルが求められる。

『日本の自動車産業の「弱み」』より

従来の日本の評価基準とは相反するが、最初に全体像を捉え、既存技術を利用しつつ、更に新しい技術を開発してプラットフォーム全体を構築するようなスキルが求められる。こうしたプラットフォームの構築は、商業化するまでに時間がかかるし、評価されにくいところがある。しかし、こうしたプラットフォーム全体を見据えた設計構築ができる人材が増えなければ、これからの世界で戦っていくことは難しい。

求められるのは、自社の技術よりも、顧客価値の起点、すなわち社会的な課題な必要とされているニーズから、既存の技術を繋げて、サービスやそれを後押しする技術を想像する力である。

日本の自動車産業は、デザインシンキング、社会的な課題を考えられる人材育成を目指すべきだし、そのためには、モノづくり重視からイノベーション創生へ、従来の人事制度や評価システムなどを変えていくような姿勢が求められる。

これは日本の製造業全般に言えることだが、「形のないもの」に対価を支払う決断が遅れがち――という悪癖がある。形があろうがあるまいが、その導入によっtもたらされる成果が重要なはずだが、サービスやソフトは中古で転売ができないから購入に二の足を踏むといった前近代的な思考が、いまだに一部の日本企業には残っている。

『日本の自動車産業の「弱み」』より

今後、サービスや情報・データ・ソフトウェアへの需要、ビジネスモデルの機会が増えていく中で、「形ないもの」にお金を払わない企業は存続が難しくなる。そもそもサービスや情報・データ・ソフトウェアに対して適格な対価を払うことができなければ、GAFAと対等にビジネスを行うことは不可能である。情報収集やネットワークの構築にもお金は必要だし、自社の事業を支援・拡大してくれるサービス事業者を支援する必要もある。

コネクテッドの時代には、データをオープンに管理し、他社との連携を行うことでデータを共有し、適宜フィードバックを行うことで、ユーザがより使いやすいプラットフォームに改良し、エコシステム全体の価値を高めていく、というビジネスモデルが一般化する。自動車産業にとっては、その一つの形態がコネクテッドになった時代のモビリティサービスである。

「形ないもの」への偏見を捨てなければ、このエコシステムの中で激化する生存競争にはついていけなくなる。

自動車が「oT」の一部になった場合に必要とされるコア技術において、日本が世界に優位性を持っている領域は圧倒的に少ない。にも関わらず、日本の自動車産業は、変化に対する動きは緩慢で、従来のサプライチェーンの構造を維持したままでこの荒波に立ち向かおうとしている。

日本車は生き残れるか (講談社現代新書)は、「欧米では……それに比べて日本では……」という、欧米に比べて日本がいかにダメなのか、ということを語るような、いわゆる「出羽守」が目的ではない。日本の自動車産業も一刻も早く、垂直統合のモノづくり至上主義から脱却し、水平分業まで視野に入れた上で、モノづくり以上の付加価値を生み出すことで、「日本経済の大黒柱」であり続けて欲しいと願っている良書である。

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