「会計が分からなければ真の経営者になれない」と稲盛和夫が言っていた。しかし、会計に対して「会計用語の暗記」とか「会計ルールの記憶」、「細かな決算処理」というイメージを持って、そのせいで会計に嫌悪感や苦手意識を持ってしまう人が多いと思う。
しかし、会計の数値は企業活動の結果を表すものなので、会計の数値を見れば、企業活動をある程度類推することはできる。逆に、企業活動を紐解くことで、その企業の会計数値の構造をある程度類推することもできる。この両者の往復を抵抗なくできる人ほど、会計を実に有益なツールとして活用できている。
ビジネススクールで身につける 会計×戦略思考 (日本経済新聞出版)は、この両者の往復をどうすればスムーズにできるかを解き明かしている良書である。
そこから何が言えるのか?を考える
会計力と戦略思考力は一心同体であり、常に両者を行き来しながら読み解いていくことが大事である。そして、その時に重要になるのが、「Why?」である。なぜ?を突き詰めた先には、本質的な原因が待ち受けている。5回の「なぜ?」を繰り返すことによって、本質的な問題解決につながる。
例えば、販管費が協合と比較して多いことに問題意識を持った会社であったとすれば、下記のような「なぜ?」を問いかけながら問答を展開すれば良い。
- なぜ、販管費が多いのか?
⇒ 広告宣伝費が多いからだ - なぜ、広告宣伝費が多いのか?
⇒ 一般消費者が相手であり、CMで顧客への訴求が必要だからだ - なぜ、CMが顧客への訴求に繋がるのか
⇒ 自社の顧客データは老若男女のマス市場である。ちらしやDMより、CMがより多くの顧客に効率よく伝えられるからだ - なぜ、顧客に伝え続けることが必要なのか?
⇒ 自社の商品は機能に優れたものであるが、市場には低価格な類似品が溢れてきている。著名芸能人が身につけている姿をCMで露出することで、ブランドを確立し、品質の良さを伝え続けることが重要だからだ - なぜ、CMだけが、ブランドを確立し、品質の良さを伝え続ける手段なのか?
⇒ 実は、SNSやECサイトに消費者が費やす時間がシフトしている中、顧客ロイヤリティを高めるための施策も、SNSやECサイトに数年前からシフトしている。CMといった一瞬の情報ではなく、SNSでは持続的な関係性を構築でき、自社の優位性である機能はむしろ伝えやすい。自社でも、広告宣伝費の効果的な再配分で総額は微減傾向にある中、さらなる売上成長に結びつることに成功している
「So What?(だから何?)」の問いかけは、解明された原因から経営の意味合いを導き出す。ビジネスマンに問われているのは、原因を解明し、意味合いを捉えた上で、問題解決へと繋げることである。
会計用語の記憶に決別する
損益計算書に書かれている用語を記憶するのはかなりシンドイ。なぜしんどいかと言うと、覚えること自体が目的化していて、何のために覚えたいのか、覚えたことで何の分析をしたり、何を知りたいかが明らかでないからである。
会計用語やその使い方も経験から学ぶものである。頭だけで覚えようとしても簡単には自分のもにはならない。頭に入ったとしても、すぐに抜けていく。
損益計算書(PL)はマトリクスで読む
損益計算書(PL)は、「本業or本業でないか」と、「経常的な活動or今年限りの活動か」によってマトリクス構造に分解することができる。全ては「売上高」から始まり、「売上原価」と「販売日及び一般管理費(販管費)」を引いた「営業利益」までが、「本業」であり「経常的な活動」となる。この売上高から営業利益までが会社にとって最も根幹となり、企業の存在意義そのものとなる。ここでいう本業とは、定款に自社の事業として定めているか否かによる。本業の変更は、株主総会で変更したりする。
「本業ではない」が「経常的な活動」が次。そうした活動から入ってくるものが「営業外収益」、出ていくものが「営業外費用」である。具体的には、銀行にお金を預けたことから発生する受取利息などである。
さて残りは「特別な活動」となる。本業であるかどうかは関係なくて、特別な活動、つまり今年限りの臨時的・偶発的なものと判断されれば「特別な活動」となる。特別な活動で得た利益は「特別利益」、損失は「特別損失」となる。例えば、ある企業が所有している工場を売ったとする。工場事態は本業を行うためのものだが、工場を売却するという行為は特別な活動となる。売却の結果、帳簿上の金額より高く売れたらその差額が特別利益、安くしか売れなかったら特別損失となる。また、東日本大震災で破損した物などは特別損失になる。
売上から始まり、ここまで足し算と引き算をした結果は、税金を引く前の純粋な利益となるので、「税引前当期純利益」と呼ばれる。税金を差し引けば、もう引くものはない。当期の純粋な利益だから、これを当期純利益と呼ぶ。悲しくも赤字であれば、当期純損失となる。
貸借対照表(BS)
損益計算書(PL)は、1年間の企業活動における「入」と「出」を順番に並べたものであるのに対し、貸借対照表(BS)は、ある日のお金の入りどころの明細、そのお金の投資・運用状態を記しているものである。お金の入りどころの明細はBSの右側に、そのお金の投資・運用状態はBSの左側に記載される。また、左右の意味合いは違うが、左右それぞれの合計金額は必ず一致する。貸借対照表は英語でバランスシートという。
BSの左側は「総資産」と呼び、「流動資産」と「固定資産」から成る。BSの右側は「負債」と「純資産」から成る。1年超以上動かないものは「固定」、1年以内に満期がくるものは「流動」と呼ぶ。たとえば、企業が保有する他社の債券でも、1年以内に満期がくるものは「有価証券」として流動資産に計上される。1年超満期の来ないものは「投資有価証券」として固定資産に計上される。
PLを読む時もそうだが、BSを読む時も「仮設を立ててから読む」ことが大事になる。ある企業の分析をする以上、その企業に対して少しは知識を持っているはずである。それらを言葉にして、それがどのように決済書に現れているかを考えることから始める。
例えば、「この業界は典型的な装置産業だから、有形固定資産、中でも建物と機械が多いはず。売上の半分くらいの金額が出てくるのではないか」とか、「あの会社は最近同業他社への多額の出資を行ったので、きっと投資有価証券の額が500億円程度増えているだろう」とか、「最近業績好調で2桁成長が続く会社だから、きっと売掛金や在庫も一気に2桁成長しているに違いない」とか、仮設を置いてからBSを読むのが大事である。
そして何より大事なのは、仮説を立てる際には、間違いを恐れないことである。仮設が間違っていても死にはしないし、間違ってたらまた考えれば良い。間違いを恐れず、論理的思考力を啓発する質問を問い続けることが大切なのである。
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個人的にだけど会計に関わらない人生を送ってきたので全く知らなかったが、働き始めるとみんなが知っていてた驚いた。会計の勉強もしないといけないのは知っていたけど、他にも勉強しないといけないことが多すぎたのと、興味なかったので逃げる人生を送ってきた。さすがに逃げれなくなったので手にとったが、本書を読んでいるだけでビジネススクールで学んでいるかのような臨場感があって、僕みたいな無知な人間には良書だった。
詳しくはビジネススクールで身につける 会計×戦略思考 (日本経済新聞出版)で述べられているが、「会計と戦略を融合して考えること」、「ロジカルに数値を捉え、仮設思考を貫こくこと」は、時代の変化がどんなに起きようと決して変わることのない大切なアプローチである。