自動車業界は今変革の最中である。温暖化ガス削減に向けた燃料規制は厳格化され、自動車業界では次世代エネルギーシステムへの転換が不可避な状況である。
また、現在、技術の進化により情報量は指数関数的に増加し、新たなサービスやビジネスモデルが生まれ、我々の生活にも大きな変化が表れている。既存の価値観や枠組みを根本的に覆し、新たな社会のスタンダードを生み出す「デジタル化」は、生活の企業活動にとって喫緊の課題である。
自動車業界では、サプライチェーンの混乱により全世界で同時に生産が停止し、需要減に見舞われ、自動車業界を取り巻く不確実性は高まっている。このようなと時だからこそ、リアルとバーチャルを融合させ、日本が誇る巧みの技を新しいテクノロジーにより発展させて、新たな価値を創出することが求められる。
続・モビリティー革命2030 不屈の自動車産業では、モビリティー革命の新たな潮流を概説し、自動車メーカーや部品メーカー、カーディーラーなどの視点に立って、混沌とした時代に必要な新価値の創造、またそれを実現するための既存事業の徹底的な効率化について、具体的な実践手法を示している。
モビリティー産業への処方箋
筋肉質お企業体質をつくるための既存事業の効率化はアフターコロナの論点であることは間違いなく、本来の目的である新価値創造への対応も止めてはならない
「人々の暮らしと移動の変化」というMX(Mobility Transformation)とは、都市圏人口の増加とMaaSによる移動の最適化を要因に、人々の移動のあり方が変わり、結果として自動車の公共財化が進むことである。都市部、地方部、観光地それぞれで生み出される付加価値の見極めがマネタイズの要諦である。
今起きているモビリティー革命派、MXにEXとDXが加わり、アップデートされた取り組みとも言える。環境に配慮した持続可能な開発を行いつつ、デジタル技術を活用して、移動に紐づく産業へ投資を促し、エコシステムを構築して地域経済を拡大する。これがモビリティー産業が向かうべき方向性の一つである。
自動車メーカーの目指すべき方向性
自動車メーカー各社には、これまでの強みであるクルマづくりを大切にしながらも、自社の思いや理念を踏まえた新たな方向性を再定義し、未来の世界に向けてチャレンジしていただきたい
CASE(コネクテッド・自動運転・シャアリング・電動化)については、Eについては、技術やコスト、インフラなどの面から思うように普及が進んでいない。CSについては、着実に普及しているが、具体的なマネタイズ方法が見いだせていないのが実情である。
一方、新車販売台数は数字だけ見ると伸びているが、低価格な小型車へのシフトが顕著であり、台数は増えても単価が下落するため収益力の低下は避けられない。さらに、CASEやMaaSへの全方位的な研究開発や設備投資は増加し、その改宗がままならないというのが自動車メーカーの現状である。
自動車メーカーが目指すべきなのは、「車作りにこだわる」ことと「車のバリューチェーンで稼ぐ」こと、「モビリティーから染み出す」ことである。
「車作りにこだわる」とは、より効果な車作りを追求する「超高付加価値化」によって収益性を高めるか、従来の車の役割や機能を見直し、社会課題の解決に寄与すべく、新たな領域へ踏み出す「エマージングモビリティー化」へ舵を切ることである。さらに、低コストな生産量を武器に他社からの製造受託でボリユームを稼ぐ「世界の工場化」が方向性となる。
「車のバリューチェーンで稼ぐ」とは、車作りにこだわり収益化していくことである。そのためには、量販者に依存した経営から脱却し、時代に合わせた新しい車作りを検討していくことが肝要である。ここからは、視点を変えて、車のバリューチェーン全体での方向性を、上流領域(素材・部品)のを目指した「テクノロジー拡販カンパニー化」、もう一つは下流領域(利活用サービス)への拡大を目指す「モビリティーサービスカンパニー化」が求められる。
「モビリティーから染み出す」とは、ここからは、車やモビリティーという枠から飛び出す方向性を考えることである。モビリティー以外の事業領域は無数であり、モビリティー以外の広範な領域全てに取り組むことは、あまり現実的ではない。そのため、何らかの判断軸や基準が必要になる。そこでキーワードとなるのは「社会課題」である。車やモビリティーを起点に生活領域に染み出す「生活密着サービスカンパニー化」と、生活基盤のリ・デザインによって暮らし全体の質を高める「社会インフラカンパニー化」について考えなければならない。
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モビリティーが私有財から公共財へと変化し、社会の多様なモノ・コトへのアクセシビリティを支える存在になりつつある中、日本や日系企業の強みを生かした独自のビジネスモデルをリ・デザインすることが求められる。
今必要なのは「勝ち負け」ではなく、日本自動車業界としての「価値」であり、「競争」ではなく「共創」である。
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日本車は生き残れるか
本書は、欧米に比べて日本がいかにダメなのかを語るのが目的ではない。日本の自動車産業も一刻も早く、モノづくり以上の付加価値を生み出すことで、「日本経済の大黒柱」であり続けて欲しいと願っている良書である。
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