今、データサイエンティストは「21世紀で最もセクシーな職業」としてもてはやされている。日本のAI・データ分析市場に目を向けると、多くの企業が参入している。早くからデータ分析事業に取り組んでいたALBERTやブレインパッドが存在感を示し、ここにリクルートなどの事業会社、NTTデータなどの大手SIer、野村総研やアクセンチュアなどのコンサルティングファームが参入している。
そういった会社のAI・分析プロジェクトに参加している人たちは、伝統的な統計を使った解析手法やディープランニングなどのテクノロジーに関することは無限に語るが、ビジネスに関するスキルは足りていない人が多い。ビジネスに関することはあまり知らないのにAI・データ分析プロジェクトを成功させようと日々頑張っている。
AI・データ分析プロジェクトのすべて[ビジネス力×技術力=価値創出]は、分析テーマに着手する前のビジネスインパクトの見積もり、分析後の実行可能性を考慮したアクションプランニング、外部リソースの活用の検討、経営層への期待値調整、プロジェクトの収益化・継続化、などを解説している。ビジネススキルもデータサイエンティストに求められる技術で、「テクノロジー」と「ビジネス」が両輪となって初めてAI・分析プロジェクトは価値を創出できる。
AIじゃないとダメですか?
AIの導入を検討する前に、解決すべき課題を明確にしないといけない。AIが得意とする用途で、運用に耐えうる精度を確保し、業務に実装できなければならない。課題が明確になったら、AI以外の方法で解決できるかも考えないといけない。業務フローの見直しや、AIよりも手軽に扱えるIT製品を検討するも良い。他の方法で課題を解決できれば、AIの開発にかかるコストはいらなくなる。まず大事なのは、AIの導入自体を目的にしないことである。
そして、「なんでもAIで解決する」という発送は危ない。慈善にベンダーに対する提案や見積もりについて、第三者に妥当性を判断してもらうのも良い。
データドリブンとは?
データ収拾と分析を繰り返しながら、アクションプランを実行することをデータドリブン(データ駆動)と言う。これを実行するには、目的に応じてデータを収集して、レポートなどで可視化する。次に、検討された施策を実行に移して、成果を評価するまでが一連の流れとなる。
データドリブンを実現するには、容易にデータを収集・取得できるデータベース基盤やBIツール、データ分析ツールなどの導入が必要である。合わせて重要なのが、これらのツールとデータ分析手法を使いこなせる組織と人材である。
企業にデータ分析を導入する上で大事なのは、解決すべき課題の見極めである。データ分析をあくまでHowの部分に相当する。初学者が陥りがちなのは、データを分析したいがために、課題の見極めを軽視することである。例えば、Kaggleなどのコンペで性能の良いモデルが広く知れ渡ると、そのモデルを使うことが目的化して、手法ありきの解決策が提案される。これでは目的と手段が入れ替わってしまう。課題を聞き出すことができてから課題を明確化し、解決手法を検討しないといけない。
AI開発の場合に気をつけるべきこと
得られるデータによって要求された性能を達成できるかが変わるなど、不確実性が高いのがAI開発である。請負で契約する場合は、何を持って成果物とするかを必ず検討する。例えば、異常検知で「90%の精度で以上を検知するAIを構築すること」を成果物とした場合、その精度が満たされていないと契約不適合となる可能性がある。先方とは成果物の定義について、しっかりと話し合わないといけない。
一方、準委任契約で仮に稼働時間を対価とした場合には、どれくらいの時間を必要とするかの見積もりを精査しなければならない。前処理に時間がかかってしまい、スケジュールが後ろ倒しになることもありうる。そのため、かけられる時間と達成できる成果については慎重に検討する必要がある。請負とは異なり、契約不適合責任はないが、あまりにも当初予定と異なると先方の信頼を失ってしまい、次のプロジェクトにつながらない。
契約書に関しては、費用がかかっても専門家(弁護士や行政書士)に相談するのが良い。初回契約などは専門家に契約書面をチェックしてもらったほうが、リスクを事前に把握した上で契約を締結できるので安心である。
進捗がよくないときの対策
AI・データ分析プロジェクトに慣れていない依頼主の場合、例えばモデル性能が中々上がらないと、あたかも何もしてないように見られてしまうこともあり、このような事態に陥ることでトラブルにつながる可能性もある。特に経験が浅いメンバーの場合、想定したモデルで性能が出なかったことを報告できず、1人で抱え込むこともある。世の中に出ている華々しいデータ分析プロジェクトにの成果の裏には多くの失敗があり、一度の試みで成功するのはマレであるということを知ることが大事である。失敗をいち早く相談・報告してアドバイスを求め、解決策を差gすようなチーム作りが求められる。
経営層との期待値調整
期待値調整はボトムアップ
意思決定層とのコミュニケーションでは、互いの認識のギャップを埋める必要がある。重要なのは、データ分析プロジェクトにおける期待値調整は必ず分析チーム側から行う。
ブームの影響もあり、AI・データ分析プロジェクトにおける意思決定層の期待値が高いことが多い。取得したデータを活用することで価値を創出する。しかし、不必要に高い期待値を持たれ、そのギャップを埋められずに無くなるプロジェクトも多い。
優先順位付けはトップダウン
ボトムアップにおける期待値調整が済んだら、プロジェクトの優先順位を決める。すでに分析チーム側から挙げられたプロジェクトの中から、効果の大小を見極めた上で、トップダウンで優先順位をつけると良い。
経営層には1〜3年ほどの短・中期の経営ビジョンなどがあるはず。そのビジョンに分析プロジェクトがどのように効いてくるかを説明する。
トップダウンとボトムアップの調整は密に行う必要がある。プロジェクトの期待値や適正な人員・工数などをその都度調整してプロジェクトを進める。実績がない中では、想定を見誤ることも多いため、堅実な方向性の選択するのが良い。
そして何より重要なのは、専門外のメンバーにも理解できるように翻訳することである。他部門から見ると、AI・データ分析プロジェクトは難しいことをしていると思われるようです。ビジネス活動から得られるデータをSQLを使って抽出・集計し、ダッシュボードで可視化するだけでなく、予測モデルを作成するなどのプロセスは、別の部門から近寄りがたい印象を持たれても不思議ではない。注意しなければならないのは、他の部門に対しても分析のアウトプットのまま成果を伝えるようなコミュニケーションです。