読書ノート

会計の新しい教科書

会計のことを高校卒業までの間に習うことはないし、大学でも文系に進んで授業を受けないと触れることすらない。そのくせ就職活動や転職活動の時に、自分が行こうとしている会社はそもそも潰れないか?すごくお金を儲けて給料は高いか?なんて調べる時には絶対に会計の知識が必要になる。しかし、巷で売られている会計の本は致命的に分かりづらい。

世界のエリートがやっている 会計の新しい教科書の著者である吉成英紀は、それは入門書に原因があるんじゃなくて、日本の会計の教え方に原因があると主張している。今までの日本の会計の教え方は、大人が物事を理解するために不可欠な「定義」と「論理」の説明が欠けている。「習うより慣れろ」という教え方をしている。それにも実は構造的な理由がある。本書はそれを明らかにしている。

会計の基本が分かっていない、そんなつまらない理由のために、優秀で真面目な日本のビジネスマンが数字でモノを語らない。「投資とリターン」の発送に欠け、商売人としてのセンスが育たない。世界で通用しない。日本企業の利益率が極端に低い。本書を読めば「会計が分からない」から卒業できる。

貸借対照表から学び、その後で損益計算書を学ぶ

会計の世界では、1)会社は今どれくらいの財産を持っているか?、2)会社の商売は儲かっているか?、を重視して、決算書で情報を提供してきた。1)を表すのが「貸借対照表」で、バランスシート(B/S)とも言う。2)を表すのが「損益計算書」で、P/Lとも言う。一般にいう決算書のうち、代表的な2つがB/SとP/Lである。

本書のアプローチでは、まずB/Sの構造をしっかり説明し、その上でB/Sの一部の明細記録としてP/Lが存在する、という説明の流れになっている。

貸借対照表

会社の財産について説明する際、まず所有する「資産」がどんなものか説明したくなる。資産を左に書くのは「昔からの慣習」である。そして、会社が正味どれくらい金持ちかを示すために、会社の借金も同時に説明する必要が出てくる。なので、会社が負っている借金である「負債」は反対側の右側に書いている。最後に、「資本」というのは資産から負債を引いた差額についての説明書きとなる。通常は資産のほうが負債よりも大きいので、右側に書く。

資産は、現金預金とか建物、土地とか。負債は、借入金とか分かりやすい項目が多い。資産と負債は実際に世の中に存在するものである。しかし、資本は、資産と負債の差額が生じた理由を説明しているものである。資本金とか利益余剰金とか、色々と書いてあるのは、差額が何によって生じたかの説明書きに過ぎない。実際に世の中に存在するものではなく、「説明書き」である。

まとめると、

  • 資産とは、会社が実質的に所有する、価値を有するものである
  • 負債とは、会社が将来、資産を支払わねばならない、支払義務である
  • 資本とは、資産と負債の差額である

資産のポイント

実質的所有

会社が所有していないものは会計では資産として扱わない。「従業員は会社の大切な宝だ」という言い方は、会計の世界では、従業員は資産ではない。会社が「所有」しているわけではなく、雇用契約に基づく関係だからである。

取得原価主義

取得原価主義というのは、「資産は買った値段で計上する」という意味である。

取得原価主義というのは会計の世界で、一部の例外を除き、世界中で原則的な考え方となっている。買った値段で計上する。その後、その資産の時価が変化しても金額は変えない、つまり「時価評価しない」という考え方である。そのため、B/Sを見ても「取得した後に価値が上がったもの」は読み取れない。

減価償却

取得原価主義のポイントは、取得した時に「買った値段」で計上したら、「それ以後、時価評価はしない」ということ。なので、資産の評価額が上がってもB/S上の金額を上げることはない。使用することで価値が減ったものは金額を減らすが、これは時価が下がったからではなく、「消耗した」「消費した」から減らす、ということである。

減損

減価償却とは別に「減損」という考え方がある。これは「資産に投資したが、商売がうまくいってなくて、どうやら全額回収することはできそうもない。回収が現実に可能と思われる金額まで資産の金額を減らす」というものである。

資産をまだ消費してなくても、商売が上手くいってないなどの理由で、「投資回収」できないと判断した時は、現実に回収できそうな金額まで資産の金額を減らす。

負債のポイント

支払義務

借入金とは、貸してくれた人に対する「支払義務」を指す。この支払義務は、あくまで「今、負っている義務」を意味する。将来負うであろう義務や、既に支払い済みの義務は対象外となる。

資本のポイント

資本は、資産と負債の「差額」である。差額が何よって生じているかの理由を説明している部分である。この差額は、会社の正味の財産価値と言える。会社がいくらくらいの財産を持っているかを考える時に、単に会社が所有している財産だけでなく、負債を引いた差額で見た、正味の財産を見るということである。

また、資産と負債の差額は、1)株主から出資を受けた時、2)会社が儲けた時、の2つの場合に、増加する。

ある人が、財産を100億円持っていても、借金が200億円あったら金持ちとは言えない。財産が100億円で借金が60億円ならば、正味40億円の財産を持っていると解釈する。会社もそれと同じ。だから、資産と負債の療法を見ることが大切である。

貸借対照表を学ぶ必要があるのは、まずこの「差額」について、資本のところに色々と記載されていることの意味を理解する必要があるからである。会計とは、いわばこの差額について徹底的に解明していく論理体系とも言える。

仕訳

仕訳というのは、B/S、P/Lを作るための日々の取引記録。仕訳の方法を知ることにより、B/S、P/Lがどのように作られるかが分かる。会計の仕組みの理解に繋がる。

会社は日々の取引を行うが、これを帳簿に記録して、最終的にはB/SとP/Lを作成する。この帳簿に記録することを「簿記」という。帳簿とは、元々は物を書くために紙を綴じて作った冊子という意味で、ここでは会計のための帳簿なので、会計帳簿という。

そして、日々の取引の記録を「仕訳」という。この仕訳というやつを帳簿に記録するわけである。「仕訳する」という言い方をする。

なお、会計の世界では、仕訳を行う際も、B/S、P/Lについて語る際も、向かって左側を借方と呼び、右側を貸方と呼ぶ。この貸方と借方というのは、単に左側、右側という意味で、それ以外の意味は一切ない。「これは慣習だ」で説明は終わる。借りたり、貸したりとかは一切関係ない。

ただ、仕分けする際に、大昔は手で合計を出していた。なので、厖大な計算の中で「時々マイナスが入る」と間違いになりやすかった。そのため、仕分けする際は、ミスを防ぐために、「マイナスになる時は、左右逆に書く」という発明を行った。

損益計算書

会社の商売の状況を把握するためには、会社が「どのように」利益を得たのかが重要になる。当期中に、利益余剰金が増加した時、あるいは減少した時に、それぞれ何よって増減したのか、その増減の明細の記録を残しておいて、それを後で集計すれば良い。損益計算書はそのために作成されている。

つまり、損益計算書は、当期中の利益余剰金の増減の内訳明細である。

仕訳からP/Lを作る

先人たちは偉大な発明をした。仕訳とは別に明細記録を作るのではなく、ただ1組の仕訳をするだけで、後でB/SとP/Lを同時に作成できる方法を考えだした。

その方法とは、仕訳をする際に、

  • 利益余剰金の増加の場合は、仕訳上、利益余剰金とは書かずに、その気持をぐっとこらえて、直接「収益」の項目を書く(例えば売上とか)
  • 利益余剰金の減少の場合は、仕訳上、利益余剰金と書かずに、その気持をぐっとこらえて、直接「費用」の項目を書く(例えば給料とか)

決算処理

仕訳をすると、「決算処理」という手続きが必要になる。

期中のける利益余剰金の増加については「収益」の科目を使って仕訳した。また、期中における利益余剰金の減少については「費用」の科目を使って仕訳した。これによって集計された収益と費用を基に損益計算書を作成することができる。ここで、収益・費用はあくまで「当期中」の金額集計である。来期にはまたゼロからカウントしないといけない。

よって決算にあたって、来期を迎えるために、収益・費用をゼロにする必要がある。これが決算処理の必要性である。

会計帳簿というのは、毎年、まっさらな新品の帳簿に記録するのではなく、毎年引き継いでいくものである。面点王・ラコンではないが、ずっと引き継いでいくものである。なので、資産、負債、資本については前期の終了時点の残高が、そのまま当期のスタート時点の残高となる。

また、決算を行うにあたり、収益と費用をゼロにすると同時に、利益余剰金の勘定を正しくする必要がある。これが決算処理の必要性である。

のれん

ある会社が別の会社を取得することがある。具体的には、2つ以上の会社が1つになる「合併(Merger)」、別の会社の株式を半分以上取得することで子会社にする「買収(Acquisition)」が代表的。この合併と買収を総称して「M&A」という。

例えば、取得する会社の資産が50億円、負債が20億円とする。差額の30億円がその会社の今現在の正味の価値となる。ここで資産50億円には含み益を抱えているものがあり、これを時価評価すると資産は60億円になるとする。実際にこの会社を買収するために支払う額は50億円であったとする。

取得する側から見れば、資産60億円と負債20億円を手に入れた。支払った対価は50億円。

この場合、「支払金額50億円 − (資産60億円 − 負債20億円) = 10億円」の金額10億円は何を買ったのか?いわば将来性を買ったといえる。この部分を「のれん」と呼ぶ。つまり、10億円の「のれん」という資産を買ったとみなす処理をする。

この「のれん」は、日本の会計基準では20年以内の期間を決めて規則的に償却することになっている。つまり年々金額を減らす。米国基準や国際会計基準では償却はしない。なお、のれんの価値が回収できないと判断したら回収できない金額だけ「減損」を行うことになっている。

引当金

例えば、将来退職する時に退職金を貰えるとつる。この場合、会社から見たら、既に社員に対して退職金を将来払う義務を負っていると言える。ただし実際に将来支払う時期や金額はまだ確定してない。

このように、時期や金額が確定してないが、支払義務を負っているという時に、計上される負債が「引当金」。

同様に、引当金には、製品保証引きや売上割戻引当金、返品調整引当金、賞与引当金、工事保証引当金、退職給付引当金、修繕引当金、特別修繕引当金、債務保証損失引当金、損害補償損失引当金、役員退職慰労引当金、ポイント引当金などがある。

PBR・ROE・PERの関係

PBRは、分子が会社の時価総額、分母が株主資本となっている。

上場会社の場合、株価というのがある。この株価×発行済株数が時価総額になる。つまり、その金額でその会社が変えるということになる。投資家の人たち、つまり株式市場が評価した、その会社の価値であり、評価額である。

株主資本というのは、その会社のB/S上の資産と負債の差額であり、会社の正味の財産価値。少数株主持分などを覗いた、純粋な株主の持ち分ということになる。

もしPBRが「1」を下回ったとする。これは、「市場は低く評価している」ということ。よく「会社の株価がお買い得」という人がいるが大きな間違いである。「市場は低く評価している」とは、株主から見たら「社員全員ごくつぶしで、今すぐ"ただで"辞めてほしい。そうすればB/S上の価値は残る。でも社員は今すぐは辞めないよね。しばらく給料も取るし、退職金まで取る。だからその分解者の財産価値が今よりも減ってしまう。その分を織り込んだのが今の株価です」という意味である。これを「負けている経営」という。

ここで大事なことは、ROEが6.7%を越えておれば、経営者が、投資家・株主に対して「やるべきことをやっているぞ」「投資家・株主を満足させる経営をしているぞ」と胸を張って言えるということである。

ちなみに、PERの逆数は「純利益/時価総額」になる。これは今の株価を前提にその会社を買った場合の投資家にとってのROI(Return on Investment. 投資利益率)を意味する。ROEは株主にとってのROIを意味する。

「ROIを知っていますよ」と言う人がいたとする。「分子が利益で、分母が投資」という知識を知っているかどうかという意味でいえば、中学生でも教えればすぐに分かる。そうではなくて、ビジネスマンが「私はROIを分かっている」と口にする時というのは、「私は投資判断ができる人間である」という意味。

次に、ROIを経営者の目から見たものがROAである。

実は、投資家の世界には、「優良不動産投資の利回り5%」という合言葉がある。もし、自分の会社のROAが2%の場合、「そんな商売は辞めて、社員・役員を全員クビにして、麻布のマンションを買うのがよっぽどよい」となる。

日本に初めて現代の複式簿記を紹介したのは、福沢諭吉である。そんな昔からあるのに、経理の仕事に就く人以外は、会計を理解している人は少ない。自社の利益率の低さに対する自覚すらない。

世界のエリートがやっている 会計の新しい教科書は、その原因がどこにあるのか、解明している良書である。

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