日本のサラリーマンは“デジタルが完全に浸透した世界をイメージできていない。そこで本書の著者が、今の日本の状況に対して、何をすべきかを考え、web上での発信やセミナーでの講演を行った内容をまとめている。
アフターデジタル オフラインのない時代に生き残るは、“デジタルトランスフォーメーション”を行いたいと思いつつも、何をしたら良いのか分からない人に向けて、“変革の武器”を与えている。
バリューチェーンからバリュージャーニーへ
「顧客接点データを多く持ち、それをエクスペリエンスの良さに還元する」という新たな改善ループをいかに光速で回せるか。これが新しい競争原理でです
デジタルが浸透するとオフラインは存在しなくなり、オンラインとオフラインの主従逆転が起きる。考え方のベースはオンラインで、こちらが“主”となる。オフラインは“信頼獲得可能な顧客との接点”という位置づけで、こちらは“従”となる。
購買行動はオンラインデータとしてIDにひも付き、IoTやカメラをはじめとする様々なセンサーが実世界の接点に置かれると、人の購買行動だけでなく、あらゆる行動がオンラインデータ化し、オフラインは存在しなくなる。こうなると、顧客接点データが膨大な量になり、企業間の競争原理は、顧客接点データを使ってどのように良いエクスペリエンス(体験)を作り、接点間を移動させ、いかにして自社サービスへの顧客吸着度を高めるか、というものに変わる。“接点頻度を高くし、行動データを活用しないと他社に負ける”という構造になってくる。何のデータも取れない商品を作って売っているだけでは、新たな顧客行動の変化を捉えられず、競争力を生み出さない。
OMO: リアルとデジタルを分ける時代の終焉
オフラインからオンラインへと生活基盤の移行が進む中、いまビジネスを行う私たちにとって必要なことは何でしょうか?その1つの解として私たちが考えているのが、アフターデジタル時代における成功企業が共通で持っている思考法としての「OMO (Online Merges with Offline、またはOn-line-Merge-Offline)」という概念です
OMOという言葉は、Googleチャイナの元CEOで、現在はシノベーションベンチャーズを率いる李開復が2017年9月頃に提唱し始めた言葉である。2017年12月のエコノミスト誌に掲載されたことで広く知られるようになった。
OMOの発生条件は、下記の4つ。これら条件が満たされると、リアルチャネルであってもオンラインで常時接続し、その場でデータが処理されて相互作用することが可能になるため、オンラインとオフラインの境界が曖昧になり、融合していく。
- スマートフォン及びモバイル姉とワークの普及
いつでもどこもでもデータを取得でき、我々に偏在的な接続性をもたらす。 - モバイル決済浸透率の上昇
モバイル決済は少額でもどんな場所でも利用が可能になる。 - 幅広い種類のセンサーが高品質で安価に手に入り、偏在する
現実世界の動作をリアルタイムでデジタル化し、活用が可能になる。 - 自動化されたロボット、人工知能の普及
最終的には物流も自動化することが可能になる。
しかし、日本企業はアフターデジタルを理解していないので、オンラインとオフラインを一緒に考える際に、オフライン的な競争原理に立ったまま戦略や競争、施策を考えてしまうので、OMO的に考えるのではなく、“逆OMO”とも言える考え方でデジタル化しようとしがちである。
最も重要なのは、取得したデータを顧客ごとにつなげて活用できるか、ということである。店舗だけ作り変えるとか、一部の店舗だけで始めても意味がない。全ての会員データ・全ての店舗の在庫データ・他店舗との連携など、全部データとして扱えるようになってはじめて意味のある取り組みになる。
ビジネス形態の変化
アフターデジタル時代のビジネス原理は、1)高頻度接点による行動データとエクスペリエンス品質のループを回すこと、2)ターゲットだけでなく、最適なタイミングで、最適なコンテンツを、最適なコミュニケーション形態で提供することである。
高頻度接点による行動データとエクスペリエンス品質のループを回す
これは下記のループを回すことである。
- エクスペリエンスが良いから優良なユーザーと良質なデータがたまる
- 得られたデータでエクスペリエンスを良くしてユーザーにお返しする
- さらに良いデータがたまる……
買い切り型や定期更新型のモデルで、“顧客との接点が年に1回しかない”という状況に陥りやすい。自社または隣接するサービスとのエコシステムによって、いかにして高頻度の接点を作っていくのかを考えて実行する必要がある。
最適なタイミングで、最適なコンテンツを、最適なコミュニケーション形態で提供する
アフターデジタル時代においては、常時接続で得られた高頻度での行動データ把握によって、ターゲットにとどまらず、ユーザーが望むタイミングを知ったり予測したりすることが可能になり、どのようなコンテンツがシア的なのかを過去の行動と現在の状況から把握でき、その人の性格や特性に適したコミュニケーション方法で提供できるようになる。
サービスを使い続ければ、嬉しいタイミングで、欲しい物を、気分の良いコミュニケーションで提供してくれるので、これに勝るものはない。これは、行動データに基づいた“顧客理解”と“即時性”の重要性が高まることを示している。
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日本が世界に追いつき追い越していくためには、データ×エクスペリエンスの切り口で考え、新たな視野を獲得することが大事である。本書はそれを形にしている。